トラネキサム酸・シナール
適応
肝斑、炎症後色素沈着
肝斑について
肝斑は、両側の頬部に左右対称に現れる地図状のもや~っとしたシミで、東洋人の女性に多く見られます。その病因としては、紫外線、ホルモン(女性ホルモン)、遺伝的要因などが影響すると考えられています。レーザー治療で炎症後色素沈着をきたしやすいため、一般にレーザー治療は禁忌とされています。
肝斑は、単なる「シミ」というよりも「シミが出来やすい肌質」と捉えた方が病態を良く表していると言えるでしょう。生まれ持った肌質なので「肝斑を治す」というよりは、「肝斑と上手につきあってシミをできるだけ薄い状態にコントロールする」ことが肝斑の治療の目標となります。
肝斑の治療に良く用いられるのが、トラネキサム酸とシナール(ビタミンC)の内服です。肝斑では、紫外線の影響で皮膚の様々な細胞から、プラスミノーゲン、VEGFなどのメラニン産生を促す分子が分泌されますが、トラネキサム酸はこれらの分子の働きを阻害します。
ビタミンCは、抗酸化作用によってメラニンの産生を抑えると考えられ、単独投与でも肝斑に対してある程度の効果があることが報告されています。
トラネキサム酸とシナールの併用が肝斑に対して効果的とは言っても、これらの内服だけで肝斑のシミが「まっさら綺麗」になることは極めて稀です。通常は、これらに加えて、ハイドロキノンとトレチノインの外用を併用したり、場合によってはフォトフェイシャルなども加えることがあります。
トラネキサム酸の副作用について
トラネキサム酸の止血作用について
トラネキサム酸はシミに対する作用や抗炎症作用の他に止血作用があります。したがって、トラネキサム酸の投与期間中に女性の生理の出血量が減る場合があり、実際にその目的で処方されることもあります。また手術中、手術後などの出血コントロールでも広く用いられています。(むしろ、止血目的での使用の方が多いかもしれません)
この止血作用があるために、血栓ができやすくなっている方の場合はそれを助長してしまう可能性があり、注意が必要です。また、健康と思っている方でも、年を重ねるうちに血栓ができてくることもありますので、トラネキサム酸はあまり長期連用をするべきではありません。当院では、1日量1500mgの処方は半年以内を目安としており、それを超える場合は減量ないし休薬するようにしております。
実際に、長期連用で血栓ができたとする報告はあまり見かけませんが、それは多くの医師が長期連用を避けているためかもしれません。しかしながら、他院で処方されていた症例ですが、肝斑のために一日量1500mgの内服を3年間続けている間に、健康診断で動脈硬化の急速な進展を指摘されたという症例は経験したことがありますし、少数ですが、止血目的でのトラネキサム酸の長期連用で肺梗塞(下肢の静脈血栓が飛んで肺動脈が詰まる)をきたした症例報告もあります。
その他の副作用
この他、嘔気、胸やけなどの症状がときどき見られますが、殆どの場合、減量することで症状が消失します。また、過量投与、透析患者(尿中排泄できないので血中濃度が通常よりも上がる)で痙攣の報告があります。
健康保険の適用について
肝斑の治療には、健康保険は適用されず、自費での診療となります。一方で、やけど(熱傷)やすり傷などの外傷の後にシミができることがあり(炎症後色素沈着)、それに対してトラネキサム酸とシナールを処方する場合には、健康保険が適用されます。
料金(税抜き)
トラネキサム酸250mg1錠(1日3錠~6錠) | ¥15 |
シナール1錠(1日3錠) | ¥10 |